
「農業」という響きは「古い」「重労働」「汚い」「休みがない」「儲からない」「食べていけない」「後継者不足」「哀退」といった、否定的なことばを耳にすることが多く、30年間サラリーマンをしていた私にとって「遠い存在」と感じていました。
50歳で脱サラし、那須に移り住んでからは、周囲を見渡すと「田」「畑」「牧草地」「酪農」と、全て「農業」に関するものでした。
14年余りのログハウス建築業の間でも、大工さんや基礎工事をお願いした土木屋さん、そこに努める社員さんたちも皆さん兼業農家で、米や野菜を生産・出荷していました。
これらの人たちと接するようになると、「米」や「野菜」はスーパーで買うものではなく、「農家」から買う物であり、いただく物になりました。
そして、何よりの違いは、その「物」の美味しさでした。
移住してから、次第に米や野菜作りに興味を持ち、いつかは自給自足の生活をしてみたいと思うようになりましたが、現実には、建築業や貸別荘業が忙しく「思い」とは裏腹に実行されることはありませんでした。2015年に取引先との関係から、ログハウスの輸入が困難になり「さて、これからの人生、何をして過ごしたら良いか」と考えていた時に「ムクナ豆」に出会ったのです。

この豆との出会いにより、再び「農業」「自給自足」が現実の事となってきました。畑は、道路を挟んだ目の前、近くの酪農家が米を作らなくなって、5年以上放置してあった元田んぼを借りました。農業用のハウス作りの指導は、これまで何棟ものログハウス建築をお願いしてきた大工さん。中古トラクターや栽培用の棚を作る「単管パイプ」の購入は、基礎工事をお願いしていた会社の社長さん。畑づくりの手伝いは、それまでにログハウスキットを買っていただいた那須在住のお客様と、「農業」を始めるにあたって必要な物や人は全て容易に揃いました。
その当時「ムクナ豆」の栽培は全国的にも少なく、ネットを検索しましたが、役に立つ具体的な栽培方法は見当たらなかったため、発芽や定植時期、棚の形状や方向、植え付け幅や害虫対策、収穫や追熟、種の取り出し方法など、全て経験しながら一つ一つ解決していきました。こうして、栽培開始以来7年目の2022年5月には那須町の「認定農業者」となり自他ともに認める「農家」になりました。しかし、一般の「農業」とは違い、1日3時間程度の作業しか行っていないため「農業」を語るには少し未熟と感じています。
でも、一つだけ実感したことがあります。
それは、土に親しみ、農作業を行って汗を流すことは、とても健康に良いという事です。
草刈、耕うん、土寄せ、マルチ張り、支柱立て、植え付け、と、どれをとっても重労働。
しかし、それを、体を動かす「運動」と捉えれば、大変ではなく、無料のフイットネス。
栽培技術を磨くのは、試行錯誤の連続です。種まき用土の配合、種蒔き時期の見極め、弦の剪定や誘引などの栽培管理、どれをとっても頭と体を使います。
そして、その結果として「果実」を得ることができれば、その苦労は報われます。さらに、収穫した豆を加工して、商品を開発し、その販路を開拓するための営業努力も必要です。
様々な業種の方達との新たな出会いや交流が広がり、ぼ~っとしている暇はありません。
私は「農業」は、自然とともに歩むことができる素敵な「職業」だと思います。
農業の課題と解決に向けた一つの提案
一方で、年々農家が減り続けている現実があります。
食糧自給率が40%に満たないと言われる中での農家の減少は、大問題だと思います。そして、そのように感じている人は多いと思います。
それなのに、今も減り続けているのはなぜなのか?
2022年、地元の栃木県那須農業振興事務所から「経営改善情報誌」が私のもとに送られてきました。(認定農業者になったことで、「農業」に関する情報が一部得られるようになりました)この冊子の中に、「水田に露地野菜を導入して所得向上を図りましょう」というページがあり、その内容を目にした私は、思わず「え~っ!!」と声を上げそうになりました。
そこには3000坪の水田で、主食用米を作った場合、そこから得られる所得は36000円と記載されていたのです。(300坪(1反)で1袋60Kgの米が9袋収穫でき、1袋9000円で売ると、81000円。ここから経営費を除くと3600円になる。この10倍で36000円)

これが本当なら、米作りをしている農家は、どのように生活をしているのか?生活できるわけがない!!(実際は、補助金や奨励金といった支援策がある?と思いますが)
ご縁がある農家の方の話によると「周囲の農家が米作りを続けているので、自分だけ止めるわけにはいかない」や「貯えがあるから、それを取り崩して生活している」や「米作りを止め、放置したら草だらけとなり、他の人の迷惑になる」などが、継続している理由だというのです。そして、その次の世代は無い!!と断言しました。
ネット上でも、同じような事を訴えている人の動画を見かけることもあり、日本の食糧事情が「崖っぷち」に立たされていることに強い危機感を覚えます。
これは、「食える農業」の崩壊による、「惰性の農業」「諦めの農業」実態なのではないか。これを「暮らせる農業」をベースに「魅力的な農業」や「使命感に基づく農業」を定着させることが、日本の食の安全・自給率の向上を図る一つの手段だと考えます。
前述の「経営改善情報誌」には、現状の改善策として3反を「ネギ」に転作することで、100万円程度の所得に改善すると言っています。しかし、それに必要な就農時間は1000時間を超えるとも書いてあります。
これに対し、私の提案は次のとおりです。
水田3町歩の内5反をムクナ豆に転作し、1tの収穫で6次化を含め、1000万円以上を売り上げ、600万円以上の所得とします。
残る2.5町歩で米の生産を継続し、食の安全と供給を守る事が出来ます。
特に大規模化が難しい中山間地など、耕作面積が僅少な地域では、これを実行することで、農業経営の継続が図れるとともに、新たな就農者を呼び込むことが可能と思われます。
これを実現するためには、課題も多くあると思います。
例えば、6次化するにあたっての加工機械の導入問題、現在、各農家が所有する米作に必要な機械類を共同使用できるようにして、経費を削減する取り組みの推進が不可欠と思われます。
農業としてのムクナ豆には、まだまだ可能性を感じています。酪農や養蜂が盛んな地域では飼料用・採密用としてムクナ豆栽培が考えられます。
また、ムクナ豆を食べていただきたい対象の人は、病気や高齢者の方達だけではありません。加齢とともに確実に減っていくドーパミンを補充し、老化防止が期待できる本当に優れた食品であり、「40歳を過ぎらムクナ豆」というキャッチフレイズで広げたい。
さらに、日本国内にとどまらず、世界中に食味の優れた、日本原産種の八升豆が輸出できれば、日本が「健康」を武器に国際貢献ができることになります。
「ムクナ豆栽培」は、とても将来性のある素晴らしい仕事だと思います。