
1.「ムクナ豆」とはどのような豆か
ムクナという名称は「ムクナプルリエンス」(Mucuna Pruriens)という学名に基づくブラジルでの呼び名で、日本では「八升豆」という名で、江戸時代までは西日本を中心に各地で栽培されていました。原産はヒマラヤ南斜面(現在のネパール)で、ブータン-タイ-ベトナム北部-中国南部-台湾-日本に至る地域に分布しています。台湾では「富貴豆」、アメリカでは「ベルベットビーン」と呼ばれています。
「那須ムクナ豆ファーム」では、日本原産の「八升豆」とアメリカ産「フロリダベルベットビーン(以下「FVB」という)」の2種類を取り扱い、総称して「ムクナ豆」と呼ぶことにします。
江戸時代を過ぎると、八升豆の栽培は廃れました。とても固い豆で食用にするための手間が大豆などに比べ、はるかに大変だったことが原因と思われます。
しかし、近年、ムクナ豆に含まれるL-ドーパというアミノ酸の一種が現在知られている植物の中で、最も多く含まれることが分かり注目を集めています。なお、インドの伝承医療で知られる「アーユルベーダ」には、ムクナ豆の利用について記されており、伝統的なこの豆が、科学的な知見を基に新しい豆として見直されています。

2.「ムクナ豆」研究実績
今世紀に入り、世界各地の研究者たちが「農作物」「飼料」「肥料」「非薬物療法への利用」の目的をもって、研究を始めています。
日本においては、東京農工大学大学院教授(2023年2月現在)で、「ムクナ豆」の普及活動を行う「ムクナ会」会長の藤井義晴先生が1985年から研究を開始したことが知られています。
●アレロパシー(他感作用)が強く、雑草防除に効果あり
ブラジルでは、あらゆる雑草を駆逐するとの文献があるようです、しかし、藤井先生の研究では、キク科やナデシコ科植物には50%程度の抑制効果が確認されましたが、イネ科植物には効果がなく、むしろトウモロコシには共栄関係が成り立つことが分かっています。
●緑肥としての用途
「ムクナ豆」は緑肥作物の中でも最高の生草収量をあげる植物で、そのチッソ含有量はレンゲの1.5から2倍もあり、台湾では最も優れた緑肥として推奨されています。
●土壌改良や飼料としての利用
ナイジェリアでは機械耕作により土壌が硬化した圃場でも、ムクナ豆を1年間栽培することで、再び耕作可能な土地に回復したという報告がありました。また、アメリカでは、種子及び莢の粉末を単体あるいは配合飼料として牛などに使われています。
トウモロコシと混作したものをカッターにかけてサイレージすることが推奨されます。
3.人への作用と将来の利用拡大への期待
「ムクナ豆」に含まれるL-ドーパは、人の運動機能をつかさどる脳内神経伝達物質であるドーパミンの前駆体です。1粒の種には50㎎程度のL-ドーパが含まれています。L-ドーパの作用として、アルツハイマー型認知症の予防や軽減が推定されています。
また、今日、パーキンソン病や瀬川病の最も有力な治療薬としてLドーパ製剤が用いられています。しかし、L-ドーパ製剤は、長く服用すると効果が薄れる時間帯が出てきたり(ウエアリングオフ)、ジスキネジア(不随意運動)などの症状が現れるという問題があります。 そこで注目されているのが「ムクナ豆」です。「ムクナ豆」に含まれる天然のL-ドーパは製剤とは異なり、素早く血中に取り込まれ、その効果は穏やかに減っていく特徴があります。また、この特徴は不変と言われています。
一方、「ムクナ豆」を大豆と同じような農産物(食品)として利用すべく研究が続けられています。気候変動や紛争などによる食糧危機がいつ起きてもおかしくないと言われる今日、食糧自給率の低い日本にとって、ムクナ豆は未利用の大事なタンパク源になり得ると考えられます。
しかし、ムクナ豆は大量に食べると、吐き気や下痢・頭痛など人体に悪影響がある為、安心して食べられるよう、L-ドーパをコントロールする方法やどのような加工品に適するかを検証する必要があります。
このような実験は、既に2009年にお茶の水女子大で始まり、現在に至るまでいくつかの研究が行われており、「ムクナ豆味噌」や、きな粉を添加した「カステラ」「クッキー」「パン」などが作られ高評価が得られています。お茶の水女子大の長期にわたる研究は、現在、東洋大学の食環境科学部の郡山貴子准教授によって受け継がれており、今後もその用途は大きく広がる可能性が期待されています。
ムクナ豆には、八升豆やFVBをはじめ、多くの種類があり、L-ドーパの含有量は、2.5%程度~6%程度と異なる事から、利用目的に合った種類のムクナ豆を栽培することや、より効率的な作物とするための、品種改良が必要と思われ、今後取り組むべき課題と考えています。

「ムクナ豆」は必ず加熱して食べます。決して、生や半生で食べてはいけません。
また、一度にたくさん食べてはいけません。生豆1粒(約1gとして)に50㎎程度のL-ドーパが含まれており、大量に食べると吐き気や下痢を起こすことがあります。煮豆であれば1回に3粒~4粒。1日3回程度が食べ始める量の目安です。
煮汁にもL-ドーパが多く含まれているため、捨てずに利用しますが、豆を食べる際にティースプーン1杯程度を一緒に摂ります。飲みすぎないよう注意しましょう。
煮豆の作り方
さっと洗った豆を一晩水に浸しておきます。(L-ドーパは水溶性なので、水洗いは短時間で済ませます)
◆(圧力鍋を使用した場合)
浸けおきした水ごと圧力鍋で20分煮て完成。
煮汁にはL-ドーパが大量に含まれているので、捨てずに利用します。
◆(保温ポットを使用する場合)
浸けおきした水ごと鍋で沸騰させます。一方で少量の沸騰湯を用意しておきます。
ポットに沸騰した状態の豆と湯を入れ、用意してあった沸騰湯を継ぎ足してポット一杯にします。
1日そのまま置いておけば、豆は柔らかくなります。
この場合のポット内の汁にもL-ドーパは多く含まれていますので利用します。
茹でた豆は長期間食べられるように、2~3日分食べる量ずつ小分けにして冷凍保存します(この際、煮汁も2~3日相当分入れて冷凍)。解凍後、冷蔵保存で2~3日で食べきるようにします。
なお、煎り豆にする場合は、銀杏を焼く網やフライパン、コーヒー焙煎機などで可能ですが、
お茶の水女子大学の実験結果から、加熱温度と加熱時間でL-ドーパの残存量が大きく異なりますので、「調理によるムクナ属マメの一般成分及びL-DOPAの変化」(日本調理科学会誌Vol45.No.6 P438~446(2012))を参照してください。
また、煎り豆は、非常に硬く、そのまま食べることは困難ですので、製粉してきな粉として利用するのが一般的です。しかし、上記のとおり、成分量は一定でないため、摂取量は1回3g、1日3回を目安に、ご自分に合った適量を探し当ててください。
(製粉に珈琲ミルなどを使用すると、直ぐに歯が痛みますので、ご注意ください)
蒸した豆を「酢漬け」にして、1回3粒、1日3回食べている方もおられます。蒸した場合、L-ドーパはほとんど減りませんし、長期保存が可能なため優れた食べ方の一つと思われます。
ムクナ豆を食べてはいけない人
18歳未満の方(瀬川病などの方は、医師とご相談の上ご利用ください)
妊娠中及び授乳中の方
向精神薬ご使用中の方
パーキンソン病などの治療中の方は、主治医の方にご相談ください。
糖尿病や高血圧症の治療薬を使っている方は、主治医にご相談の上ご利用ください。